四角いパレット

katataka's blog

置き手紙

日曜に家を出てから、久しぶりに帰ったら、
玄関の新聞受けには予備の家の鍵がちゃんと入っていて、
3日前のことを思い出した。
電気を付けると、明るくなった自分の家はいつもより広く感じた。
今まで居間のあちこちに散らばっていた、服や、カバンや、食べ物の袋や、紙類が、
みんな壁ぎわに整然と並んでいた。
エロ本の入った段ボール箱までが、部屋の隅に行儀よく置かれていた。
テーブルの上には、
昨日が賞味期限の、未開封のままのパンと、
置き手紙があった。
『手紙、置いておいたからね!』
日曜の午後、携帯電話ごしに聞いた明るい声が、蘇ってきた。
「その手紙読むの、明日の昼過ぎになっちゃいそうだなぁ」
私がそう言うと、相手の苦笑するような息が私の耳元をくすぐった。
その、先月分のカレンダーの切れ端には、
ついさっき書き込まれたみたいに、文字たちが楽しく踊っていた。
律儀にかしこまって座っている、自分で畳んだことのないパジャマ。
二つ並んだ枕。
あのとき暗い海の向こうに見えた函館山、そしてにわかに見えたセイコーマートの看板。
あのときは泣かなかったけれど、でも今夜初めて泣いた気がする。
いとしいです。