四角いパレット

katataka's blog

2日前の財務省からの資料

SNS Xの医クラの一部で少し話題の、2日前に財務省 財政制度分科会で配布された資料。

あまりに上昇傾向(特にコロナ補助)の医療費関連に対し、これまで厚生労働省任せなところが多かったのが、いよいよ財務省が本気で実態調査と本格的な介入を始めてきたようです。

Xでは半分憶測からと思われる主張が散見されますが、この配布資料は現状をかなり具体的にあぶり出し、そして半分だましていたようなところを鋭く指摘してきているように思います(資料1 p33など)。

今後はさらに医療法人の経営情報の見える化が進められていきます(資料1 p65)。貸借対照表損益計算書がリスト化され、比較が一目瞭然になります。厚生労働省の調査では有効回答率が低く経年的経過も追えないといった問題点を指摘し(かなりキレている様子が資料のあちこちから感じられる)、医療法人事業報告書などによる全数調査を目標とした「財務省による機動的調査」がすでに始まっています。医療従事者の給与をより正確に把握する取り組みも進むようです。

 

もう、冷徹に迫りくる財務省を相手に口先で騙すような言い訳や主張はできなくなってきています。

以下、個人的なメモや感想の走り書き。大変勉強になりました。

「医師偏在対策として、診療所は地域別単価の導入(診療単価10円±α円)」(資料1 p35)

報酬点数の単価への切り込みは、私も考えたことがありましたが、本当に具体的に発案した財務省はさすがです。

「看護配置に過度に依存した診療報酬体系から、実績をより反映した体型に転換していくべき」「看護配置を要件とする急性期入院料は廃止し、回復期への転換を促す」(資料1 p43)

おっしゃるとおり。

資料1 p53では、年齢階級別の1人あたり薬剤料(内服薬)のグラフがあり、後期高齢者に多くの薬剤料を要していることがわかります。現状がまとまっていて大変参考になります。

本題とは関係のないでただ気になっただけですが、資料1 p60の表で、アムロジピン2.5mgの先発品が29円になっています。いったい何年前の薬価を引っ張ってきたのでしょう。現在はその半分の薬価(15円)になってしまっています。先発品でさえも。後発品はすでに10.1円で、包装費と輸送費くらいしか賄えないんじゃないかというくらいの最低額です。一方で、以前9円台だった後発品が原材料価格高騰などを踏まえた見直しにより10円に上昇するなど、多少適正化も図られてはいるのですがね。それでもなかなか厳しい額です。

介護報酬改定の領域は、スライドの雰囲気はちょっと変わりますね。費用削減ではなく担い手の確保が主題となっていますが、なかなか難しい問題です。介護保険制度の総費用はかなり増えている状況のようですが、高齢化社会においてはもうどうしようもないのかもしれません。

資料1 p96で、訪問看護の適正化が問題点として指摘されています。現状では歯止めとなる限度基準がないようで、まだ具体的な規制案には至っていないようですが、あまりに極端なサービス提供量(月の請求額60万円以上が1.5%いる)のケースは提供実態把握と適正化が図られるべきかもしれません。

障害福祉サービスは、障害児などの人数増加もあり、社会保障関連費のなかでの著しく伸び率が高いと指摘されています(資料1 p105)。事業者の内部留保が積み上がっている一方で、サービス内容の質向上や職員の報酬上昇も確認されており、引き続き地域差や事業者ごとの差などを含め注視といった論調です。

そして「保険給付範囲の見直しの方向性」として、フランスやスウェーデンの例を出したり、OTCの自己負担が医療機関受診より高額である問題点を指摘したりしていますね。OTC化済医薬品のみ全額自己負担(技術料等は3割自己負担)とする案が出ていますが、それも患者にとっては急な負担になると思うので、フランスと類似するように段階的な自己負担割合としたり、あるいは医師会が反対すると思いますが、薬剤師が販売する市販のOTCの販売額を2割程度補助して、診察を受けず市販のOTCを購入する強い誘導をつけてもよいかなと個人的には思います。現状のOTCは私でも高額に感じて手が出にくいですから。

世代間の公平性について資料1 p149の左下などにグラフがあり、あらためて厳しい現状を思い知らされます。そして、年齢ではなく能力や金融資産を考慮に入れた負担(資料1 p149~151)とありますが、ここへの介入にはマイナンバーによる管理が前提となってくるため道のりは長いでしょうし、個人的にもこの方法による負担額の補正はあまり好きではありません。死亡するまではしっかり本人に資産を持たせておいて安心して最期を迎えていただき、相続税にそれまで本人に要した医療費用に見合った割合を上乗せするとか、斬新ではないですか(この場での思い付き)。

雇用保険関連では、コロナ禍での特例措置で6.8兆円が雇用調整助成金等として支給され(リーマンショックのときとは比べ物にならない額)、失業等給付の積立金から2.9兆円を借り入れたけれど、今後確実に返済していこうねという話(資料1 p159)。雇用関連の特例措置については医療の立場からも検証が必要かと思いますが、経済的・政治的判断の要素も大きく関与しており、なかなか複雑なところですよね。医療の立場から言うのはちょっとはばかれるものの、そして6.8兆円のなかみについてあまりちゃんと把握していないのにコメントするのはよろしくないとは思いますが、そんなにつぎ込んだのかあという素朴な感想を抱いてしまいます。給付の適正化には改善の余地があったように思いますし、今後の新たな予期せぬパンデミックや災害等に備えて、マイナンバーへの口座紐づけなどといった整備で支給手続きを簡便化し、支給段階から不正受給防止にリソースを注げるように体制を整えておくことが必要かと思います。

こうしてみると、なんとなく気になっていた問題点とかがおおよそ認識し指摘されていて、また議論のたたき台になるような改善案もある程度は出ていて、少し安心しました。

最後に、財務省側からはなかなか提言できないこととして、急性期病院における終末期や、精神的・身体的活動度が著しく低下した状態(たとえば意思疎通不可で嚥下できず胃瘻となった寝たきり状態など)での長期的な療養など、日本以外では通常されないような内容に医療資源(人件費を含む)が多く費やされている状況へ、介入の余地があるのではと現場では多々実感しています。ACP(人生会議)の普及により、本人が望む人生のありかたの認識・言語化・共有を進めることで、本人が望まない医療行為や終末期を避け尊厳を損なわず最期を迎えられる取り組みがさらに必要だと思います。それによってどれくらいの医療資源が影響するのかは、実態把握と国民の意識変容・認識の言語化みたいなことが必要なので、一筋縄ではいかない感じではありますが、きっといくつか研究もあるでしょうし、今後私が勉強したい課題です。